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1 裁判官弾劾法制定時(昭和22年法律第137号)の国会会議録

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第1回国会 参-本会議-41号 昭和22年10月22日


● 松井道夫君

只今上程せられました裁判官彈劾法案、最高裁判所裁判官國民審査法案、裁判所法の一部を改正する等の法律案、この3案に対しまする委員会の審議の経過を御報告申上げます。


先ず裁判官彈劾法案についての提案の理由、内容を簡單に申上げます。

この法律は憲法附属の法典でございまして、憲法第78條には、「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の彈劾によらなければ罷免されない。」かような規定がございまして、裁判官は原則といたしまして、公の彈劾によらなければ罷免されないことに相成つておるのであります。更に憲法第64條には、「國会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。彈劾に関する事項は、法律でこれを定める。」ということに相成りまして、國会に彈劾裁判所を置くことになつておるのであります。この憲法の規定によりまして、この法律が立案せられましたので、凡そ公務員の選定又はその罷免は國民固有の権利であるという、これ亦憲法の規定の趣旨から言いまして、これを衆議院において立案いたすということが最も適当であるという考えから、衆議院の提出案に相成つておるのであります。


内容について聊か説明を申上げますと、この問題に相成りまするのは、彈劾による罷免の事由でございまするが、これは「職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。」ということに相成つております。ここに書いておりまする「著しく違反し、」或いは「甚だしく怠つたとき、」又は「威信を著しく失うべき非行」というように書いてございまするのは、軽々に彈劾裁判所の問題にいたしまして、裁判官の職務の自由、公正、独立というものに多少たりとも影響を及ぼしてはならんという考えから出て來るのでございまして、その程度に至らぬものは、これは先般議決いたしました裁判官の分限に関する法律によつて懲戒の理由として採り上げられることと相成るのであります。彈劾に相当すべき事由があつたと考えられましたときに、これに対して檢事の役目をいたす、訴追の役目をいたしまするものは訴追委員会でございます。訴追委員会は20人の衆議院議員を以てこれを構成いたすのでありまして、予備員として同じく衆議院議員が10人選ばれます。これは選挙で選ばれるのでございまして、「衆議院議員総選挙の後初めて召集される國会の会期の始めにこれを行う。但し、第1回國会においては、その会期中にこれを行う。」ということに相成つております。予備員は勿論訴追委員に事故のある場合、また訴追委員が欠けた場合に、その訴追委員の職務を行うことになつておるのであります。それから國会法の規定によりまして、訴追委員が委員長を互選いたします。その委員長が会務を統理いたしまして、訴追委員会を代表することに相成つております。それから訴追委員会は15人以上の訴追委員の出席がなければ議事を開き、議決することができないことになつております。普通の議事は出席訴追委員の過半数でこれを決するのでありまして、可否同数の時には委員長の決するところによるのでございますが、罷免の訴追又は罷免の訴追を猶予するという議決をいたす場合には、出席訴追委員の3分の2以上の多数でこれを決することになつております。只今申上げましたように、訴追委員会は情状によつて訴追の必要がないと認める時には訴追の罷免を猶予するということができることに相成つております。又訴追委員会は、裁判官につきまして彈劾による罷免の事由があると考えます時には、これを職権によりまして調査し、又これを官公署に調査を嘱託する。その他いろいろ調査いたすことに相成るのでございますが、更に國民は何人も裁判官について今の罷免の事由があると考えます時には、訴追委員会に対してこれを請求するという権限が與えられておるのでございまして、國民訴追の制度がここに認められておるわけなのであります。


次に裁判員でございますが、裁判員は衆議院議員及び参議院議員各7人がこれを構成いたします。その予備員は、衆議院議員、参議院議員各4人であります。参議院における裁判員及び予備員の選挙は、第1回國会の会期中にこれを行うことになつておりまして、衆議院議員たる裁判員、予備員については、訴追委員会につき申したと同樣なことになつております。又彈劾裁判所は國会法の規定によりまして、裁判員がその裁判長を互選することになつておりまして、裁判長は、口頭弁論を指揮し、法廷における秩序を維持し、裁判の評議を整理する外、彈劾裁判所の事務を統理いたし、彈劾裁判所を代表することに相成つております。すべて訴追委員会もその通りでございますが、國会に附置いたすと言いましても、裁判員は独立して今の裁判の権限を行うのでございまして、必ずしも國会の指揮に從うものではございません。その旨の規定が特に入れてあるのであります。又彈劾裁判所は、衆議院議員たる裁判員及び参議院議員たる裁判員がそれぞれ5名以上出席しなければ審理及び裁判をすることができないことになつておりまして、罷免をする裁判をいたします時には3分の2以上の多数でなければそれができないということに相成つております。彈劾裁判所は刑事訴訟関係法令に規定しておりまする種々の証拠調その他の調査をいたすことができるのでございまするが、強制処分はできないことに相成つております。ただ証拠物の所持者に対し証拠物の提出を命じ、或いは事実発見のため必要のある場所を檢査する。或いは官公署に対しまして報告又は資料の提出を求める。かような権限があるのでございまするが、これに應じない場合には、3千円以下の過料を科することができる規定に相成つております。


次に裁判をいたしまするときには理由を附す。その他裁判書を作るといつたような手続の規定ができておりまするが、いよいよ裁判をいたしましたときには、裁判書の謄本を罷免の訴追を受けた裁判官に送達することに相成つております。又この裁判所は1審且つ終審裁判所でございまして、これに対して不服を申立てることはできないのであります。罷免をされました裁判官は、勿論裁判官にその後就くことができないのでございます。その他各種の法令によりまして不利益を受けるのでございまするが、5年を経ちまして、相当とする事由があるときには、その者の請求によつて、彈劾裁判所が資格回復の裁判をすることができるのであります。又罷免されましたけれども、罷免の事由がないということの明確な証拠を新たに発見したというような場合にも、やはり資格回復の裁判ができることに相成つております。その他細かな手続規定ができておるのでありまするが、大体におきまして裁判の機構は只今申上げたように相成つております。
(中略)


只今御説明申上げました裁判官彈劾法案、最高裁判所裁判官國民審査法案、それから裁判所法の一部を改正する等の法律案、これはいずれも去る18日に司法委員会におきまして、大多数の賛成を以て可決すべきものと決定いたしたのでございまするが、その間数回委員会を開きまして、特に裁判官彈劾法案及び最高裁判所裁判官國民審査法案につきましては、十分の質疑應答もあつたのでございまするが、その詳細は速記録によつて御承知を願いたいと存じます。(中略)どうか以上の3案に御賛同を賜りたいと存ずる次第であります。これを以て御報告を終ります。(拍手)


● 議長(松平恒雄君)

別に御発言もなければ、これより本案の採決をいたします。先ず裁判官彈劾法案及び最高裁判所裁判官國民審査法案の両案全部を一括して問題に供します。両案に賛成の諸君の起立を請います。
〔起立者多数〕


● 議長(松平恒雄君)

過半数と認めます。よつて両案は可決せられました。