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1 裁判官弾劾法制定時(昭和22年法律第137号)の国会会議録

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第1回国会 衆-本会議-28号 昭和22年8月23日


● 議長(松岡駒吉君)
(中略)日程第1、裁判官彈劾法案を議題といたします。提出者の趣旨弁明を許します。議院運営委員長淺沼稻次郎君。
〔淺沼稻次郎君登壇〕

● 淺沼稻次郎君
 ただいま議題となりました裁判官彈劾法案について、議院運営委員会を代表して提案の理由並びに法案の趣旨を御説明申し上げます。

 日本國憲法は、裁判官に対する國民彈劾の制度を設けるとともに、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するために國会に彈劾裁判所を設ける規定をおいたのでありますが、議院運営委員会におきましては、彈劾裁判所に関する事項が、その所管に属しております点に鑑み、また國民の手による裁判官彈劾の制度を早急に法制化することはまさに議員自身の任務であつて、法案の政府提出をまつべき性質のものにあらずとの考えから、彈劾裁判所に関する調査と、裁判官彈劾法案の起草に当ることにいたしまして、去る7月9日、彈劾裁判所に関する調査について議長の承認を得たのであります。

 爾來今日まで約50日の間、回を重ねること17回、あるいは小委員会を設けて原案起草に当り、また司法委員会との連合審査を行うこと4回に及び、しかもその間におきまして、各方面の意見を参酌し、諸外國のいわゆるインピーチメントの制度を比較研究し、かつ関係方面の意見等をも十分儉討いたしまして、昨8月22日の委員会において、日本社会党を代表して安平鹿一君、民主党を代表して後藤悦治君、自由党を代表して大石倫治君、國民協同党を代表して石田一松君、共産党を代表して林百郎君が最後的討論を行い、委員会全会一致をもつて、ここに委員会の成案を得て提出の運びとなつた次第であります。

 まず本案の起草及び提出の趣意について申し上げます。由來裁判官の地位は、司法権独立の原則に基いて憲法によつて保障されており、明治憲法も第58條において、「裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒處分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラル、コトナシ」と規定しておりました。日本國憲法も第78條において、「裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の彈劾によらなければ、罷免されない。」と規定し、同じく第64條において、「國会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する彈劾裁判所を設ける。」と規定して、裁判官の罷免が、原則として國会に設けられる彈劾裁判所の裁判によつてのみ行われるべきことを定めております。

 この彈劾の制度は、日本國憲法により新たに認められた制度でありますが、國会に設けられる彈劾裁判所にその権限を属させている点において、きわめて注目すべきものがあります。すなわち、從來の判事懲戒法によれば、免官の処分は判事みずから組織する懲戒裁判所によつて行う同僚裁判でありましたが、本法制定の曉においては、裁判官といえども廣く國民監視のもとにおかれることとなり、國民の代表たる両議院の議員の中から選ばれた彈劾裁判所の裁判員によつて罷免せられることとなるため、司法権の正しい運営が期待され、いわゆる主権在民の大原則と、公務員の罷免を國民固有の権利であるとする精神に基く新しい民主主義的制度が確立されるものと考へられるのであります。この憲法の規定に基き、裁判官に対する彈劾の制度を憲法附属法の重要な1つとして定めようとするのが本案提出の趣旨であります。

 なお、本法案起草にあたつて、裁判官彈劾制度に関する考え方の基調といたしました点は、公務員を罷免するは國民固有の権利であるとする趣旨と裁判官の地位の安定とをいかに調和するかの点でありました。日本國憲法によれば、すべて裁判官はその良心に從い独立してその職権を行い、憲法及び法律にのみ拘束されるものとされているのでありまして、裁判官が公正に良心に從つて裁判するためには、一應その地位の安定をはからねばならないこともまた当然であります。その故に憲法第78條は、「裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の彈劾によらなければ、罷免されない。」ものとしているのでありまして、この彈劾の制度をいかに規定するかは、司法権の独立にも関係する重要な問題であります。從つて、單に彈劾のための彈劾に堕し、裁判官をいたずらに不安定な地位におくことは、裁判官の公正な裁判を期待するゆえんでもなく、また決して憲法の認めた彈劾制度の本旨でもないと思うのであります。かかるがゆえに、本委員会はこの点に特に意を用い、司法権独立の原則に從つて裁判官の地位を尊重しつつ、公務員を罷免するは國民固有の権利であるとする主権在民の憲法の原則とをよく調和せしめ、もつて裁判官彈劾制度の適正妥当なる運用を期そうとした次第であります。

 次に、本案の要旨を御説明申上げます。
 第1に、彈劾により裁判官を罷免する事由としては、1、職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき、2、その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたときの2つをあげております。

 第2に、彈劾裁判所及び訴追委員会は、いずれも國会に設けられるものでありますが、國会とは別個に独立して職務を行うものである点から、國会の会期と関係なく、閉会中もその職務を行うことができるものとしております。

 第3に、訴追委員会の組織は國会法に定められているので、その員数を20人、その予備委員の員数を10人といたしましたほか、訴追委員及びその予備委員の選挙の時期、補欠、任期、辞職等に関する規定及び委員長その他の職員についての規定をおいております。

 第4に、訴追委員会は独立してその職権を行うものとし、その職責の重大性に鑑み、訴追委員会は15人をもつて定足数とし、罷免の訴追の議決は、出席訴追委員の3分の2以上の多数の意見によるべきものとしております。

 第5に、訴追の手続については、訴追委員会は彈劾による罷免の事由をみずから調査し、または官公署にその調査を嘱託することができるものとし、その調査に関しては、証人の出頭等を要求することができるものとしております。

 第6に、罷免の事由ある場合においても、特に情状によつて訴追の必要がないと認めるときは、罷免の訴追を猶予することができるものとして、時宜に應じて適当な処置をとり得る余地を認め、しかして訴追の猶予は、罷免の訴追と同様、出席訴追委員の3分の2以上の多数の意見によるものとしているのであります。

 第7に、何人でも訴追委員会に対して罷免の訴追をすべきことを求めることができることとして、彈劾が眞に國民のために認められた制度であるということを明らかにしております。

 第8に、彈劾裁判所については、各議院においてその議員の中から選挙された同数の裁判員でこれを組織することは國会法で定められておりますので、本案では、訴追委員会におけると同様、裁判員及びその予備員の員数、選挙の時期、補欠、任期、辞職等に関する規定及びその他の職員に関する規定を設けているのでありますが、特に裁判員の員数は、衆議院議員及び参議院議員たる裁判員各7人、合計14人とし、審理及び裁判を行うには、各議院の議員たる裁判員それぞれ5人以上の出席を要するものとしております。

 第9に、審理及び裁判については、その公正な運用を期待して、裁判員は独立して職権を行うものとするとともに、彈劾裁判所の対審及び裁判の宣告は、すべて公開の法廷でこれを行うものとしているのであります。

 第10に、裁判員に対する除斥、忌避及び回避、法廷における審理、証人等については、刑事訴訟法の規定を準用することとしているのでありますが、この法律に特別の規定のない限りは、審理及び裁判の手続については、彈劾裁判所がみずから必要な規定を定め得ることとしてあります。

 第11に、罷免の裁判については、特にこの手続を愼重ならしめるため若干の規定を設け、殊に罷免の裁判をするには特に審理に関與した裁判員の3分の2以上の多数の意見によるべきものとしておるのであります。
 第12に、罷免によつて裁判官または檢察官となる資格を失つた者は、特定の場合には、彈劾裁判所の裁判によりその資格を回復することを得させることを規定しております。

 第13に、訴追された裁判官が辞職して罷免の裁判を免れんとすることを防ぐ意味において、罷免の訴追をうけた裁判官は、本人が免官を願い出た場合でも、彈劾裁判所の終局裁判があるまでは免官し得ないものといたしましたほか、訴追された裁判官の職務の停止、彈劾と刑事訴訟との関係についての必要な規定を設けました。

 最後に、虚偽の申告者に対する罰則、及び正当の理由なくして証人として召喚に應じない者に対する過料の制裁をおいております。

 次に、本案起草の過程におきまして特に論議の対象となりました2、3の点を拾つて御紹介いたします。

 第1は、第2條の罷免の事由については、本法案の最も重要な規定でありますが、この範囲については、涜職行為のあつたとき等を加えよとの意見も相当強かつたのでありますが、一方において、いたずらに罷免の事由の項目を拡大することは適当でないのみならず、他方、これ等の点も運用により第2條の規定をもつて処理し得るものとされまして、罷免の事由は、裁判官として職務上適格でない場合及び司法権の尊嚴を毀損するような行為に限定し、たれから見ても彈劾するのが適当と思われる事由を第2條のごとく規定するのが妥当であるとの結論に達しました。

 第2は、第2條と関連して、第13條の訴追の猶予の規定を必要とするか否かの点であります。これについては最も議論のわかれた点でありまして、第2條には「著しく」または「甚だしく」とあつて、その範囲がかなり狭いのであるから、さらにこれに対して訴追の猶予を認める必要はなく、また一度罷免の事由ありと認めたときは、訴追委員会の性格上必ず訴追すべきものであつて、情状酌量すべき性質のものではない、かつかかる訴追の猶予の規定を存置することは、彈劾裁判所の権限を弱体化するおそれがあり、從つて訴追委員会としては行き過ぎであるという意見がありましたが、罷免の事由があつても、種々の事情によつて必ずしも訴追の必要のないような場合も起り得るであらうし、かつこの猶予の規定のないときは、たとえば、裁判官として職務をとることに支障がないと思わるる裁判官でも、3年前になした行為によつてこれを訴追しなければならない結果となるから、猶予の規定を存置して、時宜に應じて適当な処置をとり得る余地を残した方がよいとの結論になつたのであります。

 第3に、罷免された裁判官について、恩給権の剥奪、他の文官の任用に対する制限、弁護士となることの可否等が問題とされましたが、これらのことは本案に規定すべき性質でないとの考えから、恩給法の改正及び今後制定されるべき公務員法、弁護士法に委ねることにいたしました。

 第4に、証人等の召喚、証拠調等について、彈劾裁判所及び訴追委員会に対して廣範囲の強制権を認むべしとの意見がありましたが、司法権の範囲でない点より考えて、過料による間接的強制に止めるを妥当としたのであります。その他幾多の論議が活発に展開されましたが、会議録によつて御承知いただきたいと存じます。

 以上、本案提出の趣旨及び内容について御説明申し上げました。
 本案は、裁判官彈劾のため彈劾裁判所及び訴追委員会の活動に必要な大綱を定めたものでありますが、法の運用はこれを運用する人にあることは勿論であります。しかして、本案を運用して裁判官を彈劾する裁判員も、これを訴追する訴追委員も、本案実施により両議院の議員の中から選ばれるものであります。私は本案の速やかなる実施を希望するとともに、裁判員及び訴追委員となられる議員諸君が、彈劾制度の本質と本案の趣旨を十分体得されて、裁判官彈劾制度の適切にして妥当なる運用をはかられんことを切望する次第であります。

 なお本案は、國会法及び新衆議院規則のもとにおいて取扱われました委員会提出法律案の嚆矢でありますことは、提出者たる本委員会の深き喜びとするところであります。私は、國会の自主的活動の強く要望される今日、國会運営の中心となりました委員会の活発な活動の結果、委員会提出法律案のますます多からんことを期待しつつ、炎熱の候委員各位の御熱心と御努力、並びに條文整理に当られた議院事務当局に感謝申し上げ、私の説明を終ります。何とぞ満場一致御賛成あらんことを希望する次第であります。(拍手)

● 議長(松岡駒吉君)
 採決いたします。本案を可決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

● 議長(松岡駒吉君)
 御異議なしと認めます。よつて本案は可決いたしました。